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宮崎・大分ステージ レースレポート
マイナビ ツール・ド・九州2025 宮崎・大分ステージ(第3ステージ)
大会3日目となる宮崎・大分ステージ。119.25kmのコースは3級山岳と2級山岳がそれぞれひとつずつと、この3日間の中では最も難易度の低いプロフィール。大会の最終日ではあるが総合成績の転覆が難しいことはどのチームも織り込み済み。
ジョゼフ・ピドコックが総合4位につけるQ36.5プロサイクリングチームのニエーリ監督は、「(総合3位のガリッボとの)30秒という差は大きすぎると思う。表彰台に乗るのは難しいだろう」と現実的に考える。チームは佐世保クリテリウムで勝利したものの、福岡ステージでダビ・デラクルスを落車で失い、総合狙いのプランが狂った。

リーダージャージを着て最終ステージに臨むキリロ・ツァレンコ(ソリューションテック・ヴィーにファンティーニ)
同じく福岡ステージの落車でアレクサンドル・ドゥレトルを失い、総合優勝の可能性が遠ざかったトタルエナジーズは、この最終日に目標を切り替えた。ジュノゾー監督は「ステージを勝つために、あらゆる手を尽くす」と野心を隠さない。裏を返せば、手ぶらでは帰れないということだ。
マイナビ ツール・ド・九州は宮崎・大分ステージとして、3年目にして初めて2つの県をまたいでのコースが設定された。スタート地点の延岡市役所では、この日が現役ラストレースとなるジョフレ・スープ(トタルエナジーズ)、そして今季でチーム退団を表明していたフランシスコ・マンセボがプロトンの仲間たちに見送られる一幕もあった。

スタートに先立ってのテープカット。左から三浦久知延岡市⻑、河野俊嗣宮崎県知事、池辺和弘ツール・ド・九州2025実行委員会会⻑、桑田龍太郎大分県副知事、冨髙国子佐伯市⻑。一番左はみやざき犬のひぃくん。

この日が現役最後のレースとなったジョフレ・スープ(トタルエナジーズ)
レースはスタートからアタックの応酬となり、集団は常に不安定なまま進行した。中でもシマノレーシングはチーム総動員で飛び出しを図る。野寺監督が「日本国内で最高カテゴリーのステージレースに出るからには何かを残さないといけません。僕らがチャンスを掴むには逃げに乗らないと何も始まらない」と語る通りの積極的な走りを見せたが、19km地点に設定された中間スプリントポイントのボーナスタイム狙いの総合成績上位チームがこれを許さない。

延岡の山下新天街をパレード走行するプロトン
このスプリントポイントはトマ・ボネ(トタルエナジーズ)が先頭で通過。その後に飛び出した4名がこの日最初の逃げグループを形成する。

序盤に逃げグループを形成したニコラス・セスラー(ヴィクトリア・スポーツ・プロサイクリング)、入部正太朗(シマノレーシングチーム)、宇賀隆貴(キナンレーシングチーム)、アトヌウ・ウィリアムヤン・ファン・エングラン(トレンガヌ・サイクリングチーム)
4名は、この日最初の3級山岳を逃げグループのまま越えたが、後方のメイン集団ではトタルエナジーズがペースアップを図り下りのあとで吸収した。
残り76km地点、蒲江の中間スプリントポイントはアンテルマルシェ・ワンティが隊列を組んだが、間隙を縫ったヘノック・ムルブラン(XDS・アスタナ)が先着。ボーナスタイムの獲得に成功する。この競り合いの後で集団はひとたび逃げを容認。7名の選手が先頭グループを形成した。

蒲江の中間スプリントを制したへノック・ムルブラン(XDS・アスタナチーム)

7名の逃げ。入部正太朗(シマノレーシングチーム)、今村駿介(アンテルマルシェ・ワンティ)、ニコラス・ヴィノクロフ(XDS・アスタナ)、マーク・ドノヴァン(Q36.5プロサイクリングチーム)、バティスト・ヴァディク(トタルエナジーズ)、アレッサンドロ・ファンチェル(TEAM UKYO) 、アレクシス・バガラ(ヴィクトリア・スポーツ・プロサイクリング)
続く2級山岳で再びメイン集団がペースアップ。先にKOMを越えていた逃げの数名を捉え、15名の小集団となった。さらに後ろの大集団は、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニが牽引し、ペースの上がらない小集団を捉えにかかる。
佐伯市内の周回コースに入る前に大集団が逃げていた15名に追いつき、集団一つに。スプリンターチームが体制を整える中、スプリンターのいないトタルエナジーズ、TEAM UKYOが短い登りを利用して度々攻撃を繰り返すが、決定的な動きを生み出すには至らない。

ソリューションテック・ヴィーニファンティーニが集団を牽引
残り16kmで集団から飛び出したのは昨日ベストジャパニーズ賞に輝いた武山晃輔(宇都宮ブリッツェン)。しかしこの動きは実らず、残り13kmで吸収された。このタイミングでフアン・ペドロ・ロサーノ・ナバーロ(トレンガヌ・サイクリングチーム)がカウンターアタックを仕掛けると、集団はこの一人逃げを容認。

集団からの飛び出しを見せた武山晃輔(宇都宮ブリッツェン)
ナバーロは残り6kmで30秒差を得て、なおも逃げ続ける。ここまで総合リーダーチームのソリューションテック・ヴィーニファンティーニがコントロールしてきた集団では、スプリンターを擁するチームがこの差を詰めにペースアップを図るが、ナバーロが強力に抵抗する。

最後まで粘ったフアン・ペドロ・ロサーノ・ナバーロ(トレンガヌ・サイクリングチーム)
残り1kmで7秒を保ったナバーロだったが、トタルエナジーズの強力な牽引で残り300mで吸収。スープがスプリントを開始し、前日優勝のドリース・デポーテル(アンテルマルシェ・ワンティ)が競り合う中、残り100mで後ろから加速したムルブランが先着。僅差のスプリントだったが両手を挙げて勝利を喜んだ。

宮崎・大分ステージを制したへノック・ムルブラン(XDS・アスタナチーム)
危なげなく集団内でフィニッシュしたキリロ・ツァレンコ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)がマイナビ ツール・ド・九州2025の総合優勝に輝いた。
今大会に出場した5つのワールドチーム/プロチームのうち、トタルエナジーズを除く4チームは大会日程のいずれかで勝利を飾った。トタルエナジーズはしかし、全日程で積極果敢な走りが印象に残る。勝負には敗れたが、レースでは魅せた。
「今日、ロードレースの世界はとても整然とした、画一的なものになっている。我々はもっと大らかに、攻撃的な走りをすることに喜びを見出して、力を発揮したい。大概の場合、観客もそうした走りを楽しんでくれる。これはチーム創設以来の我々の姿勢であり、アイデンティティでもあるんだ」と、この日の朝、ジュノゾー監督が語った通りのチームのあり方だった。

3日間常に攻撃的なレースを展開したトタルエナジーズ
一方で、ツァレンコの総合優勝を支えたのは新城幸也だったことを、この3日間のレースを見た者は誰もが理解している。今大会で集団を牽引した時間は、おそらく誰よりも長い。この日も登りで集団の最後尾まで下がったかと思えば、いつのまにか集団の前で牽引の仕事をこなしていた。
今シーズンを通じ、日本の各レースで改めて強い印象を残した新城幸也。41歳のベテランは、自身の経験を伝えることで新加入のチームに変化をもたらした。ここ九州での勝利も、そのひとつと言えよう。新城は自らの強みをこう語る。

ツァレンコの総合優勝を喜ぶソリューションテック・ヴィーニファンティーニ。その中心には新城幸也がいる
「2時間3時間と平坦を高出力で踏み続けられるのは僕の長所であり、この時間集団をコントロールするのはチームの他の選手にはできないことです。そんな僕の長所を使ってチームが勝利してくれる。今までこのチームはシーズン20勝を挙げたことなんてなかったんです。僕が入って選手たちをまとめることで勝率が高くなるので、チームからの信頼をもらえていますし、僕がチームにいる意味はそこにあります。
チームにはヘルパーが必要なんです。今のワールドチームはヘルパー、終盤の担当、リーダーと役割が明確に決まっている。今までこのチームは各人の役割がもっとアバウトでプランもありませんした。しかし僕がここを仕事するから、あなたはここをやってね、と役割を明確にすると選手たちはどこで頑張ればいいかわかり、頑張れるんです。それもあってどんどん成績が出ていると感じていますし、来年もいい方向に向かっていくと思います」
ひとつの集団の中に、変わらないアイデンティティとスタイルを貫くチームがあれば、変化の中で成功を手にするチームもある。様々な価値観と文化をもって戦い合うのが世界レベルのロードレースだとするならば、今年の九州には確かにそれがあった。九州という環境が、優れた選手たちを魅了し続け、この先もまた厳しくも美しいレースが続くことを願ってやまない。
宮崎・大分ステージ(第3ステージ)結果
1位 ヘノック・ムルブラン(XDS・アスタナ チーム)2時間36分06秒
2位 ドリース・デポーテル(アンテルマルシェ・ワンティ)
3位 ジョフレ・スープ(トタルエナジーズ)
個人総合成績
1位 キリロ・ツァレンコ(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ) 8時間01分15秒
2位 レイン・タラマエ(キナンレーシングチーム)+4秒
3位 ニコロ・ガリッボ(TEAM UKYO)+49秒
総合時間賞リーダーに輝いたキリロ・ツァレンコのコメント
「チーム一丸となってレースを勝ち取ることができ、すごく大きな喜びを感じています。九州は素晴らしい土地で、しかも気候も良かったです。暑いのが好きなんです」
ステージ優勝・ポイント賞リーダーに輝いたヘノック・ムルブランのコメント
「福岡では計算違いで逃げの選手を行かせてしまい、熊本阿蘇では勝利を逃しました。チームにはよい選手が揃っているので、勝利が必要でした。今日の勝利はチームに相応しいものです。チームメイトは中間スプリントでも助けてくれて、総合成績も上昇できたと思いますが、まずはこのステージ優勝を喜びたいと思います」
新人賞リーダーのジェラルド・レデスマのコメント
「1秒でも取れれば総合成績が上がると思い、中間スプリントにトライしてボーナスタイム1秒を獲得できました。フィニッシュでも6位、チームメイトのベンジャが7位に入れたのはいい成績だったと思います。日本でのレースもレベルが高く、今しばらくここで鍛錬を積みたいと今は望んでいます。先のことはわかりませんが、いつかはツール・ド・フランスを走れたら……!」
山岳賞リーダーの織田聖のコメント
「今日は安全にゴールするのが第一目標で、その中でリザルト狙えたらいいなと思ってもがきました。(ワールドチーム・プロチームがいて)コントロールされているのでいつもより安全だったと思いますが、位置取りが悪かったですね」
ベストジャパニーズライダーの山本哲央のコメント
「単騎だったので、アスタナかトタルエナジーズの番手をとりたかったんですが、ラスト400mくらいで一回外に弾かれてしまい、この結果でした。ここで残れていれば、もしかしたら3位くらいは行けたような感覚もあったんですけど、まだまだ実力不足です。表彰していただけるのは嬉しいことですが、これに甘んじずにポディウムに乗れるようにこれからも仕上げていきたいと思います」
(了)